消費者契約法
最終更新日: 2025-10-18

消費者契約法とは

 
消費者契約法は、消費者と事業者の間に存在する情報の質や量、交渉力の格差を踏まえ、消費者の利益を保護することを目的として制定された法律です。この法律では、事業者による不適切な勧誘行為によって消費者が誤認したり、困惑したりして契約を結んだ場合に、消費者がその契約の申込みや承諾の意思表示を取り消すことができると定めています。
また、事業者が損害賠償責任を一方的に免除する条項や、その他消費者の利益を不当に害する契約条項については、その全部または一部を無効とする規定も設けられています。さらに、消費者の被害の発生や拡大を防ぐため、適格消費者団体が事業者に対して不当な行為の差止めを請求できる制度も整備されています。
これらの規定を通じて、消費者契約法は消費者の権利を守り、国民生活の安定と向上、さらには国民経済の健全な発展に寄与することを目指しています。


事業者と消費者の努力義務

 

事業者の努力義務

 
事業者は、以下の措置を講ずるよう努めなければなりません。

  • 契約条項の明確化と平易化
    消費者契約の条項を定める際には、消費者の権利義務その他契約内容について、解釈に疑義が生じないよう明確にし、かつ消費者にとって分かりやすい表現となるよう配慮すること。
  • 勧誘時の情報提供
    消費者契約の締結に向けた勧誘を行う際には、契約対象となる物品・権利・役務等の性質に応じて、事業者が把握し得た個々の消費者の年齢、心身の状態、知識および経験を総合的に考慮し、消費者の権利義務その他契約内容に関する必要な情報を提供すること。
  • 定型取引合意に関する情報提供
    民法に規定される定型取引合意に該当する消費者契約の締結に際しては、消費者が定型約款の内容を容易に確認できる状態にある場合を除き、消費者が請求を行うために必要な情報を提供すること。
  • 解除権に関する情報提供
    消費者からの求めがあった場合には、契約に基づき消費者が有する解除権の行使に必要な情報を提供すること。

 

消費者の努力義務

 
消費者は、消費者契約を締結するにあたり、事業者から提供された情報を活用し、自らの権利義務および契約内容について理解するよう努めなければなりません。


消費者契約の申込みまたは承諾の意思表示の取消し

 
消費者は、事業者が消費者契約の締結に際して行った以下の行為により誤認または困惑し、その結果として契約の申込みまたは承諾の意思表示をした場合には、当該意思表示を取り消すことができます。
 

誤認による取消し

 
以下のいずれかの行為により誤認した場合は、取消しが可能です。

  • 不実告知
    重要事項について事実と異なる内容を告げられ、それを事実であると誤認した場合。
  • 断定的判断の提供
    契約対象に関する将来の価額や受取金額など、不確実な事項について断定的な判断を示され、その内容が確実であると誤認した場合。
  • 不利益事実の不告知
    重要事項またはそれに関連する事項について、消費者の利益となる旨を告げる一方で、消費者に不利益となる事実を故意または重大な過失により告げず、その事実が存在しないと誤認した場合。

 

困惑による取消し

 
以下のいずれかの行為により困惑した場合は、取消しが可能です。

  • 不退去
    消費者が住居や業務場所から退去を求めたにもかかわらず、事業者が退去しない場合。
  • 退去妨害(その場からの退去を妨げる行為)
    勧誘場所から退去の意思を示した消費者を退去させない場合。
  • 退去妨害(同行による勧誘)
    消費者が任意に退去することが困難な場所であると知りながら、告げずに同行し、その場所で勧誘を行った場合。
  • 連絡妨害
    契約締結の可否について第三者と連絡を取ろうとする消費者に対し、威迫的な言動を交えてその連絡を妨げた場合。
  • 不安をあおる告知
    社会経験が乏しい消費者が、以下の事項に対して過度な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、合理的根拠なく契約対象がその不安解消に必要であると告げた場合。
    • 進学、就職、結婚、生計などの社会生活上の重要事項
    • 容姿、体型など身体的特徴や状況に関する重要事項
  • 好意の感情の不当な利用
    消費者が勧誘者に恋愛感情などの好意を抱き、かつ相手も同様の感情を持っていると誤信していることを知りながら、それに乗じて「契約しなければ関係が破綻する」と告げた場合。
  • 判断力の低下の不当な利用
    加齢や心身の故障により判断力が著しく低下している消費者が、生計や健康などに過度な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、合理的根拠なく「契約しなければ生活の維持が困難になる」と告げた場合。
  • 霊感等による知見を用いた告知
    霊感など合理的に実証困難な能力に基づき、消費者やその親族の生命・身体・財産等に重大な不利益が生じると不安をあおり、またはその不安に乗じて「契約が不可欠である」と告げた場合。
  • 契約締結前の債務実施等
    契約申込みまたは承諾の意思表示前に、契約により負う義務の全部または一部を実施し、または目的物の現状を変更し、原状回復が著しく困難となる行為をした場合。
  • 契約締結前の事業活動に関する告知
    契約申込みまたは承諾の意思表示前に、事業者が調査・情報提供・物品調達等の事業活動を行い、それが消費者の特別な求めによるものでないにもかかわらず、「消費者のために特別に実施した」「損失の補償を請求する」と告げた場合。

 

通常を著しく超える契約内容による取消し

 
以下のいずれかに該当する場合も、取消しが可能です。

  • 契約の目的となる物品・権利・役務の分量、回数、期間が、消費者にとって通常を著しく超えるものであることを事業者が知っていた場合。
  • 消費者が既に同種の契約を締結しており、その分量等と新たな契約の分量等を合算すると、通常を著しく超えるものであることを事業者が知っていた場合。

 

取消権の時効

 
取消権は、追認可能な時から1年間(霊感等による知見を用いた告知に関する取消権は3年間)行使しない場合、時効により消滅します。
また、契約締結の時から5年間(霊感等による知見を用いた告知に関する取消権は10年間)を経過した場合も、時効により消滅します。


消費者契約の条項の無効

 
以下に該当する消費者契約の条項は、いずれも無効となります。
 

損害賠償責任の免除・制限に関する条項

 

  • 事業者の債務不履行によって消費者に生じた損害について、事業者の賠償責任の全部を免除する条項
  • 事業者に賠償責任の有無を決定する権限を付与する条項
  • 事業者の賠償責任の一部を免除する条項
  • 事業者に賠償責任の限度を決定する権限を付与する条項

 

不法行為に関する責任の免除・制限に関する条項

 

  • 事業者の債務履行に際して行われた不法行為による損害について、事業者の賠償責任の全部を免除する条項
  • 事業者に賠償責任の有無を決定する権限を付与する条項
  • 事業者の賠償責任の一部を免除する条項
  • 事業者に賠償責任の限度を決定する権限を付与する条項

 

過失に関する責任の免除に関する条項

 

  • 債務不履行または不法行為による損害について、一部免除する条項であり、その条項が重大な過失を除く過失にのみ適用される」ことを明示していない場合

 

解除権の制限に関する条項

 

  • 債務不履行によって生じる消費者の解除権を放棄させる条項
  • 事業者に解除権の有無を決定する権限を付与する条項
  • 消費者が後見・保佐・補助開始の審判を受けたことのみを理由に、事業者に解除権を付与する条項

 

損害賠償額・違約金に関する条項

 

  • 契約解除に伴う損害賠償額や違約金を定めた条項で、平均的な損害額を超える部分(解除の事由・時期等に応じた区分を含む)
  • 支払期日までに金銭を支払わなかった場合の損害賠償額や違約金を定めた条項で、年14.6%を超える部分(支払期日翌日から支払日までの日数に応じて計算)

 

意思表示の推定・消費者の不利益に関する条項

 

  • 消費者の不作為をもって申込みや承諾の意思表示とみなす条項
  • 公の秩序に関しない規定の適用による場合と比べて、消費者の権利を制限し、または義務を加重する条項で、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの