配偶者居住権とは
配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物に居住していた場合には、遺産分割、遺贈又は死因贈与により、その建物の全部について使用及び収益をすることができる権利のことです。
この場合の配偶者とは、法律上被相続人と婚姻をしていた配偶者をいい、内縁の配偶者は含まれません。
また、配偶者居住権の目的となる建物は、相続開始の時点において、被相続人の財産に属した建物でなければなりません。被相続人が建物の共有持分を有していたに過ぎない場合には、原則として配偶者居住権を成立させることはできません。例外的に、居住建物が被相続人と配偶者の共有となっている場合に限り、配偶者居住権の成立が認められます。
遺産分割の請求を受けた家庭裁判所は、次の場合に限り、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の審判をすることができます。
- 共同相続人間で配偶者に配偶者居住権を取得させることについて合意が成立しているとき
- 配偶者が配偶者居住権の取得を希望し、かつ、建物所有者が受ける不利益の程度を考慮してもない配偶者の生活を維持するために特に必要があるとき
配偶者居住権の存続期間は、原則として配偶者の終身の間存続することとしていますが、遺産分割、遺贈又は死因贈与で、存続期間を定めることもできます。ただし、遺産分割協議で配偶者居住権の存続期間を定めた場合、期間の延長や更新を求めることはできません。
配偶者居住権の登記
居住建物の所有者は、配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います。
配偶者居住権は、建物に対して登記することにより、第三者に対抗することができます。
配偶者による居住建物の使用および収益
配偶者は、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用および収益をしなければなりません。
配偶者居住権は、帰属上の一身専属権であり、その帰属主体は配偶者に限定され、譲渡することはできません。
配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の増改築をしたり、第三者に居住建物の使用または収益をさせたりすることはできません。
居住建物の修繕
配偶者は、居住建物の使用および収益に必要な修繕をすることができます。居住建物の修繕が必要である場合、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができます。
配偶者居住権の消滅
配偶者居住権の消滅原因は、主に次の4つが挙げられます。
- 存続期間の満了
- 居住建物の所有者による消滅請求
居住建物の所有者は、配偶者が用法順守義務や善管注意義務に違反した場合や、居住建物の所有者の承諾を得ずに、第三者に使用収益をさせ、又は増改築をした場合には、配偶者に対して相当の期間を定めて是正の勧告を行い、その期間内に是正されないときは、配偶者に対する意思表示によって、配偶者居住権を消滅させることができます。 - 配偶者の死亡
- 居住建物の全部消滅等
災害等の理由により居住建物の全部が滅失してしまった場合には、配偶者居住権は消滅します。
なお、居住建物の所有者が配偶者よりも先になくなった場合には、居住建物の所有者の相続人が配偶者居住権の目的とされた居住建物等を相続することになります。相続により居住建物の所有者が変わっても配偶者居住権はそのまま存続します。
配偶者居住権の放棄および合意解除
配偶者は、配偶者居住権を放棄することができます。その場合、居住建物の所有者の「配偶者居住権付き居住建物の所有権」が「完全所有権」となります。その結果、配偶者居住権が設定されていたときより居住建物の価値が増加し、売却も容易になります。したがって、無償で放棄した場合には、放棄時の配偶者居住権の価額に相当する利益を、居住建物の所有者が贈与により受けたものとみなされ、贈与税の課税対象となります。
また、合意解除によりその時点の配偶者居住権の価額に相当する対価を、居住建物の所有者から配偶者が受けた場合には、配偶者の譲渡所得(総合課税)となり、所得税と住民税の課税対象となります。
配偶者短期居住権
配偶者短期居住権とは、被相続人の配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には、相続開始の時から次に掲げる期間の間、その建物の全部について無償で使用することができる権利のことです。
- 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすべき場合、遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日
- 上記以外の場合、居住建物の所有権を取得した者が配偶者短期居住権の消滅の申入れをした日から6か月を経過する日
この場合の配偶者とは、法律上被相続人と婚姻をしていた配偶者をいい、内縁の配偶者は含まれません。
また、配偶者短期居住権の目的となる建物は、相続開始の時点において、被相続人の財産に属した建物でなければなりません。被相続人が建物の共有持分を有していたに過ぎない場合であっても、配偶者短期居住権は成立し、配偶者は、被相続人の共有持分を取得していた者に対し、その持分に応じた対価を支払うことなく、居住建物を使用することができます。この点は、配偶者居住権とは異なる点です。
配偶者短期居住権は、配偶者居住権と同じく配偶者が居住建物を無償で使用することができる権利です。しかし、配偶者居住権とは異なり、配偶者が配偶者短期居住権を取得した場合でも、遺産分割において、配偶者の具体的相続分からその価値が控除されることはありません。
なお、配偶者短期居住権は、第三者に対抗することができません。
配偶者短期居住権が成立しない場合
以下の場合には、配偶者短期居住権は成立しません。
- 配偶者が相続開始の時に居住建物の配偶者居住権を取得した場合
- 配偶者が欠格事由に該当し、又は廃除により相続人でなくなった場合
なお、配偶者が相続を放棄した場合であっても、配偶者短期居住権は成立します。
配偶者による居住建物の使用
配偶者短期居住権は、配偶者に居住建物の使用権原のみを認め、収益権原は認めません。
配偶者は、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用しなければなりません。
配偶者居住権は、帰属上の一身専属権であり、その帰属主体は配偶者に限定され、譲渡することはできません。
配偶者は、居住建物の取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることはできません。
居住建物の修繕
配偶者は、居住建物の使用および収益に必要な修繕をすることができます。居住建物の修繕が必要である場合、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の取得者は、その修繕をすることができます。
配偶者短期居住権の消滅
配偶者短期居住権の消滅原因は、主に次の5つが挙げられます。
- 存続期間の満了
- 居住建物の取得者による消滅請求
居住建物の取得者は、配偶者が用法順守義務や善管注意義務に違反した場合や、居住建物の所有者の承諾を得ずに、第三者に使用をさせた場合には、配偶者に対して相当の期間を定めて是正の勧告を行い、その期間内に是正されないときは、配偶者に対する意思表示によって、配偶者短期居住権を消滅させることができます。
居住建物が共有である場合には、各共有者は、それぞれ単独で配偶者短期居住権の消滅請求をすることができます。 - 配偶者による配偶者居住権の取得
- 配偶者の死亡
- 居住建物の全部消滅等
災害等の理由により居住建物の全部が滅失してしまった場合には、配偶者短期居住権は消滅します。
なお、配偶者短期居住権が消滅したときは、配偶者は、居住建物の取得者に対し、居住建物を返還しなければなりません。その際、配偶者が相続開始後に居住建物に付属させた物がある場合には、収去する権利を有し、義務を負います。また、通常の使用によって生じた居住建物の消耗及び経年変化を除き、原状回復義務を負います。