確定拠出年金とは
確定拠出年金とは、加入者が拠出した掛金を自ら運用し、その運用成果に応じて将来の年金給付額が決まる制度です。掛金は個人ごとに明確に管理され、運用の結果によって受け取る年金額が変動します。
この制度には、事業主が掛金を拠出する企業型と、加入者自身が掛金を拠出する個人型の2種類があります。個人型確定拠出年金は、一般に「iDeCo(イデコ)」という名称で広く知られています。
確定拠出年金の加入対象者
確定拠出年金には企業型と個人型の2種類があり、それぞれ加入できる対象者が異なります。
確定拠出年金 |
加入対象者 |
備 考 |
企業型 | 制度を実施している企業に勤務する従業員 |
ー |
個人型 |
国民年金の第1号被保険者(自営業者、フリーランスなど) |
農業者年金の被保険者、国民年金の保険料免除者は除く |
国民年金の第2号被保険者(会社員、公務員など) | ・公務員や私立学校教職員共済制度の加入者を含む ・企業年金加入者の場合、以下のすべての条件を満たす必要があります ①iDeCoの掛金額が、企業型DCの事業主掛金額および他制度(確定給付企業年金、厚生年金基金、石炭鉱業年金基金、私立学校教職員共済制度)の掛金相当額と合算して、月ごとの拠出限度額を超えていないこと ②企業型・個人型の掛金が月単位で拠出されていること ③企業型DCにおいて、加入者掛金を拠出していないこと |
|
国民年金の第3号被保険者(会社員の配偶者など) |
ー |
|
国民年金の任意加入被保険者 |
・60歳以上65歳未満で、国民年金の納付済期間が480月に達していない者 |
確定拠出年金の掛金
企業型確定拠出年金の掛金
企業型確定拠出年金では、原則として事業主が掛金を拠出します。ただし、企業型年金規約に定めることで、加入者が事業主掛金に上乗せして掛金を拠出することも可能です。
加入者掛金を拠出する場合は、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 事業主掛金と加入者掛金の合計が、拠出限度額の範囲内であること
- 加入者掛金の額が、事業主掛金の額を超えないこと
個人型確定拠出年金の掛金
個人型確定拠出年金では、加入者自身が掛金を拠出します。掛金は、月額5,000円以上、1,000円単位で設定できます。
確定拠出年金の拠出限度額一覧
区分 |
条件 |
月額 |
年額 |
企業型 |
企業型DCのみ加入 |
55,000円 |
660,000円 |
確定給付企業年金や個人型DCと併用 |
55,000円 − 他制度掛金相当額 |
660,000円 |
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個人型 |
国民年金の第1号被保険者・任意加入被保険者 |
68,000円 |
816,000円 |
厚生年金保険の被保険者(企業型DCや他制度に未加入) |
23,000円 |
276,000円 |
|
厚生年金保険の被保険者(企業型DCと他制度に加入) |
20,000円 |
240,000円 |
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厚生年金保険の被保険者(企業型DCのみ加入) |
|||
厚生年金保険の被保険者(他制度のみ加入、公務員を含む) |
|||
国民年金の第3号被保険者 |
23,000円 |
276,000円 |
※他制度には、確定給付企業年金、厚生年金基金、私立学校教職員共済制度、石炭鉱業年金基金が含まれます。
iDeCo+(イデコプラス)
iDeCo+(イデコプラス)は、正式名称を「中小事業主掛金納付制度」といい、企業型確定拠出年金、確定給付企業年金、厚生年金基金を導入していない中小企業の事業主が、従業員の老後の所得確保を支援するために、従業員が拠出するiDeCoの掛金に上乗せして、事業主が掛金を拠出できる制度です。対象となる従業員は、厚生年金に加入しており、かつiDeCoに加入している者です。
事業主の要件
事業主がiDeCo+を導入するには、以下の条件を満たす必要があります。
- 企業型DC、確定給付企業年金、厚生年金基金のいずれも実施していないこと
- 従業員数が300人以下の中小企業であること(複数事業所を持つ場合は全事業所の合計人数)
- 事業主払込用の登録事業所番号を事前に取得していること
対象となる従業員
- iDeCoに加入している従業員のうち、事業主掛金の上乗せに同意した者
掛金について
- 加入者掛金と事業主掛金の合計が、月額5,000円以上23,000円以下
- 加入者・事業主ともに1,000円単位で設定可能
- 事業主掛金の額は、原則として、対象従業員全員が同額になるように設定
- iDeCo未加入の従業員に対して、加入を強制することはできない。また、事業主掛金のみの拠出も不可
- 加入者掛金を0円にはできない(かならず拠出が必要)
- 事業主掛金が加入者掛金を上回ることは可能
- 加入者掛金・事業主掛金ともに事業主がとりまとめて納付
確定拠出年金の運用
確定拠出年金の運用商品は、加入手続きを行った運用管理機関(金融機関など)が選定・提示します。運用管理機関ごとに特色のある商品ラインアップが用意されており、加入者または運用指図者が自己の判断で運用商品を選択します。
運用商品の種類
運用商品は大きく分けて以下の2種類があります。
- 元本確保型商品(定期預金、保険商品など):元本が保証されており、リスクが低い
- 元本変動型商品(投資信託など):市場の変動により元本割れの可能性があるが、リターンも期待できる
運用商品の選定ルール
用管理機関は、以下のルールに基づいて運用商品を提示します。
- 商品数は3種類以上35種類以下(簡易企業型年金の場合は2種類以上)
- 加入者は複数の商品を組み合わせて選択可能
- 運用の途中で、商品を変更することも可能
確定拠出年金の年金資産の持ち運び(ポータビリティ)
確定拠出年金やその他の私的年金制度では、離職・転職や制度変更があった場合に、積み立てた年金資産を他の制度へ移管できる場合があります。この仕組みを「ポータビリティ(持ち運び)」といいます。
対象となる制度には以下が含まれます。
- 確定給付企業年金
- 企業型確定拠出年金
- 個人型確定拠出年金(iDeCo)
- 通算企業年金
- 中小企業退職金共済
私的年金制度におけるポータビリティの対応状況
以下の表は、離職・転職前に加入していた制度から、転職先で導入されている制度への資産移管の可否を示しています。
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離転職先で導入している制度・資産移管先の制度
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確定給付企業年金
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企業型確定拠出年金
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個人型確定拠出年金
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通算企業年金
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中小企業退職金共済
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離転職前に加入していた制度等 |
確定給付企業年金
|
◯
(※2)
|
◯
|
◯
|
◯
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△ (※1 ※3)
|
△
(※1 ※2)
|
△ (※1)
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|||||
企業型確定拠出年金
|
◯ (※2) |
◯
|
◯
|
◯
|
△ (※3)
|
|
個人型確定拠出年金
|
◯
(※2)
|
◯
|
ー
|
×
|
×
|
|
通算企業年金
|
◯
(※2)
|
◯
|
◯
|
ー
|
×
|
|
中小企業退職金共済
|
△
(※2 ※3)
|
△
(※3)
|
×
|
×
|
◯
|
◯:加入者の申出により移管可能
△:事業主の手続きにより移管可能
ー:対象外
×:移管不可
※1 離転職前等の制度の規約による
※2 離転職先等の制度の規約による
※3 制度の合併等の場合に限る
このように、ポータビリティの可否は、制度間の規約や事業主の対応、制度の合併状況などによって異なります。転職や退職の際には、移管の可否や手続き方法を事前に確認することが重要です。
確定拠出年金の給付
確定拠出年金には、老齢給付金、障害給付金、死亡一時金、脱退一時金の4つの給付があります。
老齢給付金
老齢給付金は、通算加入者等期間が10年以上ある場合、60歳から受給可能です。ただし、60歳時点で通算加入者等期間が10年未満の場合は、以下のとおり支給開始年齢が繰り下げられます。
通算加入者等期間 |
支給開始年齢 |
10年以上 |
60歳 |
8年以上10年未満 |
61歳 |
6年以上8年未満 |
62歳 |
4年以上6年未満 |
63歳 |
2年以上4年未満 |
64歳 |
1月以上2年未満 |
65歳 |
給付方法は、5年以上20年以下の有期年金または終身年金から選択できます。また、規約により一時金としての受給も可能です。
障害給付金
障害給付金は、75歳到達前に一定の障害状態となり、1年6か月以上継続している場合に受給できます。給付方法は老齢給付金と同様に、有期年金・終身年金・一時金から選択可能です。
死亡一時金
加入者等が死亡した場合、遺族が資産残高を一時金として受給できます。
脱退一時金
以下のいずれかのケースに該当する場合、60歳未満でも資産を一時金として受給できます。
ケース①:資産額15,000円以下での請求(企業型DC)
- 企業型DCの資格喪失後、6か月以内に請求
- 加入者・運用指図者でない
- 資産額が15,000円以下
ケース②:資産額15,000円超での請求(企業型DC)
- 企業型DCの資格喪失後、6か月以内に請求
- 加入者・運用指図者でない
- 60歳未満
- iDeCoに加入できない
- 日本国籍を有する海外居住者(20歳以上60歳未満)でない
- 障害給付金の受給権者でない
- 以下のいずれかに該当:
- 掛金拠出期間が5年以下
- 資産額が25万円以下
ケース③:個人型DCからの請求
- 60歳未満
- 企業型DC加入者でない
- iDeCoに加入できない
- 日本国籍を有する海外居住者(20歳以上60歳未満)でない
- 障害給付金の受給権者でない
- 以下のいずれかに該当:
- 掛金拠出期間が5年以下
- 資産額が25万円以下
- 最後の資格喪失日から2年以内に請求
確定拠出年金の税法上の取扱い
確定拠出年金における税法上の取扱いは、拠出時・運用時・給付時の3つのタイミングで異なります。企業型・個人型それぞれの取扱いは以下のとおりです。
企業型確定拠出年金 |
個人型確定拠出年金 |
|
拠出時 |
・事業主掛金:全額損金算入(非課税) |
・加入者掛金:全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除) |
運用時 |
・運用益は非課税 |
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給付時 |
・年金として受給する場合:雑所得として課税、公的年金等控除の対象 |
また、老齢給付金以外は、以下のとおりです。
- 障害給付金:非課税
- 死亡一時金:相続税の課税対象(みなし相続財産)
- 脱退一時金:原則として一時所得として課税対象
このように、確定拠出年金は税法上の優遇措置が多く設けられている制度です。特に拠出時の所得控除や運用益の非課税は、資産形成において大きなメリットとなります。