労働者災害補償保険(労災保険)とは
労働者災害補償保険(通称:労災保険)は、労働者が業務中または通勤途中に病気やけがを負ったり、障害を負ったり、死亡した場合に、必要な保険給付を行う制度です。加えて、被災した労働者の社会復帰を支援するための事業も実施されています。
この保険制度の保険者は政府であり、手続きの窓口は労働基準監督署です。
なお、労災保険と雇用保険は、あわせて労働保険と呼ばれます。保険給付はそれぞれの制度で個別に行われますが、保険料の徴収は一体的に取り扱われています。
事業主は、労働者を一人でも雇用している場合、労働保険に加入し、労働保険料を納付する義務があります。
労災保険の加入対象者
労災保険は、正社員、パート、アルバイト、派遣労働者、日雇い労働者など、雇用形態にかかわらず、すべての労働者が対象となります。
ただし、事業主や法人の役員は原則として対象外です。ただし、役員であっても使用人兼務役員のように、実際に労働者としての業務に従事している場合は、加入対象となります。
労災保険の特別加入制度
特別加入制度とは、労働者ではないものの、業務の内容や災害リスクの観点から、労働者に準じて保護することが適当とされる人に対して、一定の条件のもとで労災保険への加入を認める制度です。
特別加入の対象者は、中小事業主等、一人親方等、特定作業従事者、海外派遣者の4つの区分に分類されます。
労災保険の保険料
労災保険料は、事業主が全額を負担します。労働者の給与から天引きされることはありません。
保険料の計算は、以下の式に基づいて行われます。
労災保険料 = 年度内の全従業員の賃金総額 × 労災保険率
労災保険率は、事業の種類や業務の危険度に応じて異なり、厚生労働省が定めています。
労災保険の保険給付の対象
労災保険の給付対象となる災害は、業務災害と通勤災害の2つに分類されます。
業務災害
業務災害とは、労働者が業務中に負ったけが、病気、障害、死亡などを指します。
業務災害と認定されるには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 業務起因性
災害が、その業務に従事していなければ発生しなかったと認められ、業務に従事していれば発生する可能性があると判断されること。つまり、業務と災害の間に因果関係があること。 - 業務遂行性
労働者が労働契約に基づき、事業主の指揮命令下で業務を遂行している状態であること。
通勤災害
通勤災害とは、労働者が通勤中に負ったけが、病気、障害、死亡などを指します。
労災保険における「通勤」とは、以下のような移動を合理的な経路・方法で行うことを指します。
- 住居と就業場所との往復
- 就業場所間の移動
- 単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動
ただし、移動中に経路を逸脱または中断した場合、その間およびその後の移動は原則として通勤とは認められません。
例外として、以下のような日常生活上必要な行為による一時的な逸脱・中断については、その後の移動が通勤と認められる場合があります。
- 日用品の購入など、これに準ずる行為
- 職業訓練や定時制高校などでの教育を受ける行為
- 選挙権の行使など、これに準ずる行為
- 病院・診療所での診療・治療、およびこれに準ずる行為
- 要介護状態にある配偶者・子・父母などの介護
労災保険の給付の種類
労災保険には、以下のような給付があります。カッコ内は、通勤災害の場合の名称です。
療養補償給付(療養給付)
業務災害または通勤災害によるけがや病気の治療のため、労災病院または労災保険指定医療機関で療養を受けることができます。
- 業務災害の場合:治療費の自己負担はありません。
- 通勤災害の場合:初回のみ200円の自己負担があります。
休業補償給付(休業給付)
療養のために休業し、賃金が支払われない場合、休業4日目から給付基礎日額の60%が支給されます。
初日から3日間は待期期間とされ、給付は支給されません(連続している必要はありません)。
傷病補償年金(傷病年金)
療養開始から1年6か月を経過しても治癒せず、傷病等級1級~3級に該当する場合に支給されます。
介護補償給付(介護給付)
常時または随時介護が必要な場合、介護にかかった費用の全部または一部が支給されます。
障害補償給付(障害給付)
けがや病気が治癒した後に一定の障害が残った場合に支給されます。
遺族補償給付(遺族給付)
業務災害または通勤災害による死亡に対して、遺族の人数に応じて年金または一時金が支給されます。
年金の支給対象は、生計を維持されていた以下の順に該当する者です。
- 配偶者
- 子
- 父母
- 孫
- 祖父母
- 兄弟姉妹
一時金は、年金を受けられる遺族がいない場合に支給されます。
葬祭料(葬祭給付)
死亡した労働者の葬祭を行った人に対して、一時金が支給されます。
二次健康診断等給付
一次健康診断で、脳血管疾患や心臓疾患に関連する項目に異常が認められた場合、二次健康診断および特定保健指導が実施されます。
給付基礎日額
給付基礎日額とは、原則として労働基準法に定める平均賃金に相当する額のことです。
平均賃金は、以下のように算出されます。
- 業務災害や通勤災害によるけが・病気・死亡の原因となった事故が発生した日、または医師の診断により疾病の発生が確定した日(賃金締切日がある場合は、その直前の締切日)を基準日とします。
- 基準日の直前3か月間に支払われた賃金の総額(賞与や臨時的な賃金は除く)を、その期間の暦日数で割ったものが、1日あたりの平均賃金=給付基礎日額となります。
算定基礎日額
算定基礎日額とは、原則として、業務災害または通勤災害によるけがや死亡の原因となった事故が発生した日、または医師の診断により病気の発生が確定した日の直前1年間に、労働者が事業主から受け取った特別給与の総額(算定基礎年額)を365で割った額のことです。
特別給与とは、給付基礎日額の算定対象から除外される賞与など、3か月を超える期間ごとに支払われる賃金を指します。なお、臨時的に支払われた賃金は含まれません。