保険のきほん
最終更新日: 2025-10-04

保険の基本的原則

大数の法則

 
少数の事例では傾向が見えにくくても、多数の事例を集めることで一定の法則性が現れます。保険では、この統計的な法則を活用して、将来のリスクを予測し、保険料を算定します。

収支相当の原則

 
保険制度の健全な運営には、保険料収入と保険金支出のバランスが重要です。原則として、集めた保険料(収入)と支払った保険金(支出)が等しくなるように設計されます。

給付・反対給付均等の原則

 
死亡率は年齢や性別によって異なるため、すべての契約者が同じ保険料を支払うと不公平が生じます。そこで、契約者ごとのリスクに応じて保険料を設定することで、負担の公平性を確保します。

利得禁止の原則

 
損害保険の目的は、被った損害を補償することです。そのため、被保険者が保険金の受け取りによって利益を得ることは認められていません。保険金はあくまで損害の補填であり、利得を目的とするものではありません。


保険契約者保護機構

 
保険契約者保護機構とは、保険会社が破綻した際に契約者を保護するために設立された法人です。国内で保険業を営む保険会社は、以下の機構への加入が義務付けられています。

  • 生命保険会社:生命保険契約者保護機構
  • 損害保険会社:損害保険契約者保護機構

日本国外に本店を持つ保険会社や、民営化後のかんぽ生命も対象です。また、銀行の窓口で契約した保険も、保険契約者保護機構による補償の対象となります。
ただし、以下のような事業者は加入対象外です。

  • 少額短期保険業者
  • 共済(例:全労済、都道府県民共済、JA共済、CO・OP共済)

 

保険会社が破綻した場合の補償内容

 
保険契約者保護機構による補償の対象となる保険契約と補償割合は、以下のとおりです。
 

保険の種類

補償割合

生命保険

責任準備金等90% ※

損害保険(下記以外)

自賠責保険

破綻後3か月間:保険金額100%
破綻後3か月以降:責任準備金等の100%

家計地震保険

自動車保険

破綻後3か月間:保険金額100%
破綻後3か月以降:責任準備金等80%

火災保険

その他の損害保険(賠償責任保険、動産総合保険、海上保険、運送保険、信用保険、労働者火災補償責任保険など)

疾病・傷害に関する保険

短期傷害保険

海外旅行傷害保険

年金払型積立傷害保険

責任準備金等90% ※

財産形成貯蓄傷害保険

確定拠出年金傷害保険

その他の疾病・傷害保険、上記以外の傷害保険、所得補償保険、医療・介護(費用)保険など

※破綻時に過去5年間で常に予定利率が基準利率を超えていた高予定利率契約の場合、補償率は90%より低くなることがあります。


クーリングオフ制度

 
クーリングオフ制度とは、一定の契約について、一定期間内に所定の条件を満たすことで、消費者が申込みの撤回や契約の解除を行える制度です。
 
保険契約の場合、契約の申込日またはクーリングオフに関する記載がある書面の受領日のいずれか遅い日から8日以内であれば、申込みの撤回または契約の解除が可能です。
 
従来は書面による申出のみが認められていましたが、2022年5月9日施行の改正保険業法により、電磁的記録(例:Webフォーム等)による申出も可能となりました。この改正を受けて、多くの保険会社が自社ホームページにクーリングオフ専用フォームを設置しています。
 

クーリングオフが適用されない契約

 
以下のような契約は、クーリングオフの対象外となるため、注意が必要です。

  • 営業・事業のため、または営業・事業として締結された契約
  • 法人、法人でない社団・財団、国・地方公共団体が申込者である契約
  • 保険期間が1年以下の契約
  • 自動車損害賠償責任保険契約など、法令により加入が義務付けられている契約
  • 申込者が事前に訪問日時を通知し、保険契約の申込みを目的として保険会社等の営業所等を訪問し、そこで申込みを行った場合
  • 申込者が自ら指定した場所(営業所や自宅以外)で申込みを行った場合
  • 郵便・インターネット等を利用して申込みを行った場合
  • 振込みにより保険料等を保険会社の口座に支払った場合(ただし、保険会社の使用人等に依頼して行った場合を除く)
  • 医師による診査が必要な契約で、その診査が完了している場合
  • 勤労者財産形成促進法に基づく勤労者財産形成貯蓄契約、勤労者財産形成年金貯蓄契約、勤労者財産形成住宅貯蓄契約
  • 金銭消費貸借契約・賃貸借契約など、他の契約に係る債務の履行を担保とする契約
  • 既契約の更改・更新、または保険金額・保険期間などの変更に関する契約

ソルベンシー・マージン比率

 
ソルベンシー・マージン比率とは、通常の予測を超える突発的なリスク(自然災害、大規模事故、経済危機など)に対して、保険会社がどれだけの支払余力を持っているかを示す指標です。
この比率が高いほど、保険会社の財務的な安全性が高いとされ、一般的には200%以上であれば、健全性の一つの目安とされています。
ただし、ソルベンシー・マージン比率が200%を超えていても、過去には破綻した保険会社も存在します。そのため、この指標だけで保険会社の健全性を判断するのは危険であり、他の財務指標や経営状況と併せて総合的に判断することが重要です。
ソルベンシー・マージン比率が100%以上200%未満の場合、金融庁などの監督行政当局は、保険会社に対して経営の健全性を確保するための合理的な経営改善計画の提出およびその計画の実行命令を発動することがあります。


保険法

 
保険法とは、保険契約に関する一般的なルールを定めた法律であり、契約の締結から終了までの間における、関係者の権利や義務などを規定しています。この法律は、保険契約だけでなく共済契約にも適用されます。
生命保険契約や損害保険契約に加え、現在広く普及している傷害疾病保険も対象となり、傷害や疾病に基づいて保険金が支払われる契約にも保険法の規定が適用されます。
また、保険契約者、被保険者、保険金受取人の保護を目的とした規定が整備されました。具体的には、告知制度の見直しや、保険金の支払時期に関する規定が新設され、これらを含む多くの規定が、契約者等に不利な内容を無効とする片面的強行規定とされています。
片面的強行規定とは、保険契約者などの保護を目的とし、法律で定められた規定に反して契約者等に不利な内容の約款や特約が定められていた場合、それらは無効とされるルールです。これにより、契約者の権利が不当に制限されることを防ぎ、保険契約の公正性が確保されます。


保険業法

 
保険業法とは、保険業に携わる者が遵守すべき基本的なルールを定めた法律です。保険業は、不特定多数の人々に保障サービスを提供するという公共性を持つため、業務の健全性・適正な運営・公正な保険募集を確保し、保険契約者の保護を図ることがこの法律の目的です。なお、共済契約には保険業法は適用されません
 
保険業法では、保険募集人や保険会社等が保険契約の募集・締結に際して、以下のような行為を禁止しています。

  • 虚偽の説明・重要事項の不告知の禁止
    保険契約者や被保険者に対して、虚偽の説明をしたり、契約判断に影響を与える重要事項を説明しないことは禁止されています。
  • 告知妨害・不告知を勧める行為の禁止
    契約者や被保険者が病歴などを保険会社に告げることを妨げたり、告げないよう勧める行為は禁止されています。
  • 不当な比較表示の禁止
    他社商品と自社商品を比較する際に、誤解を招くような説明や表示をすることは禁止されています。
  • 不当な乗換募集の禁止
    契約者に不利益となる事実を告げずに、保険の乗り換えを勧める行為は禁止されています。
  • 特別利益の提供の禁止
    保険料の割引・割戻しなど、契約者に対して特別な利益を提供することは禁止されています。2025年の改正により、契約者と密接な関係を有する者(例:グループ企業)への提供も禁止対象となりました。
  • 断定的判断の提供の禁止
    将来の配当金や変額保険の保険金など、不確実な事項について断定的な判断を示すことは禁止されています。