保険価額と保険金額
損害保険とは、主に人・物・賠償責任を対象として、損害を補償する保険のことです。
損害保険の補償は、原則としてその実損額に相当する保険金が支払われます(ただし、上限はあります)。
保険価額とは、保険事故の発生によって、被保険者が被る可能性のある損害の限度額のことです。
保険価額は、対象物を新たに取得するときに必要とされる再調達価額や時価によって評価します。
保険金額とは、保険会社が損害のてん補として給付する金額の限度額のことです。
損害保険の分類
損害保険の保険金額と保険の目的物の価額(保健価額)の関係によって、次の3種類に分けられます。
超過保険
超過保険とは、損害保険契約の締結の時において保険金額が保険価額を超えている保険のことです。
保険契約者及び被保険者が善意でかつ重大な過失がなかったときは、保険契約者は、その超過部分について、当該損害保険契約を取り消すことができます。ただし、保険価額について約定した一定の価額(約定保険価額)があるときは、取り消すことはできません。
全部保険
全部保険とは、保険金額が保険価額と等しい保険のことです。
一部保険
一部保険とは、保険金額が保険価額(約定保険価額があるときは、当該約定保険価額)に満たない保険のことです。
保険者が行うべき保険給付の額は、当該保険金額の当該保険価額に対する割合をてん補損害額に乗じて得た額とします。
損害保険の保険料のしくみ
保険料は、保険会社が支払う保険金に充てられる部分である純保険料と、保険会社が保険業を運営するための経費である付加保険料で構成されています。
また、積立型の損害保険(満期時に一定の満期返戻金を受け取ることができる保険)の場合は、将来、契約者に満期返戻金を支払うための原資となる積立保険料が別途加算されます。
火災保険
火災保険とは、火災等によって生じた建物や家財の損害を補償するための保険のことです。
住宅を補償の対象とする火災保険には、住宅総合保険と住宅火災保険があります。
住宅総合保険は、一般的な天災損害に加えてさまざまな補償が対象となります。
住宅火災保険は、一般的な天災損害が補償の対象となります。
なお、いずれの保険も地震、噴火、津波による損害は対象外です。
住宅総合保険と住宅火災保険の補償の範囲は、下表のとおりです。
損害の原因 |
住宅総合保険 |
住宅火災保険 |
火災(隣家からの延焼を含む) | ◯ | ◯ |
消防活動による水漏れ | ◯ | ◯ |
落雷 | ◯ | ◯ |
ガス爆発等の破裂・爆発 | ◯ | ◯ |
風災、ひょう災、雪災 | ◯ | ◯ |
水災 | ◯ | ✕ |
建物外部からの飛来、落下、衝突 | ◯ | ✕ |
給排水設備の事故等による水漏れ | ◯ | ✕ |
騒じょう等による暴行、破壊 | ◯ | ✕ |
盗難 | ◯ | ✕ |
原則として保険金額と保険価額は同額とし、再調達価額で契約します。
また、対象となる建物と家財等は、別々に保険金額を設定して契約する必要があります。
ただし、貴金属、宝石、書画、骨董品等、1個または1組の価額が30万円超の財産は明記物件として個別に申告する必要があります。
失火責任法
失火責任法とは、失火者の賠償責任について民法の例外を定めた法律のことです。
民法第709条(不法行為による損害賠償)の規定では、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」とされています。
しかし、失火責任法の規定では、「民法第709条の規定は、失火の場合には、適用しない。ただし、失火者に重大な過失があったときは、この限りでない。」とし、失火者に故意または重大な過失がある場合に限り、損害賠償を負うとされています。
ただし、借家の場合は、賃貸借契約上の原状回復義務を果たす必要があるので、家主に対しては債務不履行による損害賠償責任を負うことになります。
そのため、賃貸用の火災保険の補償内容では、借家人賠償補償、個人賠償補償、家財補償がセットになることが一般的です。
失火者の損害賠償責任の有無は、下表のとおりです。
|
損害賠償責任の有無 |
|
隣家 |
家主 |
|
無過失または軽過失 | 無 | 有 |
重過失または故意 | 有 | 有 |
また、ガスボンベの爆発事故による損害には、失火責任法は適用されず、民法第709条の規定による不法行為の責任を負うことになります。
地震保険
割引制度 |
適用条件 |
割引率 |
免震建築物割引 | 住宅の品質確保の促進等に関する法律に規定する評価方法基準において、免震建築物の基準に適合する建築物であること | 50% |
耐震等級割引 | 住宅の品質確保の促進等に関する法律に規定する評価基準に定める「耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)」または国土交通省の定める「耐震診断による耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)の評価指針」に定められた耐震等級を有する建築物であること | 耐震等級3:50% 耐震等級2:30% 耐震等級1:10% |
耐震診断割引 | 地方公共団体等による耐震診断または耐震改修の結果、改正建築基準法(1981(昭和56)年6月1日施行)における耐震基準を満たす建築物であること | 10% |
建築年割引 | 1981(昭和56)年6月1日以降に新築された建築物であること | 10% |
※割引制度を重複して適用することはできません。
地震保険の保険金額は、主契約である火災保険の保険金額の30〜50%の範囲内で設定することができます。
ただし、家財は1,000万円、建物は5,000万円が保険金額の上限となります。
保険の対象となるのは、住居として使用される建物(店舗併用住宅や建築中の住宅を含む)、家財については生活用動産に限られ、建物と家財を別々に契約する必要があります。
なお、貴金属、宝石、書画、骨董品等、1個または1組の価額が30万円超の財産は補償の対象外です。
地震保険の保険金額は、次のように覚えましょう!
支払われる保険金の額は、建物や家財について生じた損害の程度に応じて下表のとおりに区分されます。
損害の程度 |
支払われる保険金額 |
全損 | 100% |
大半損 | 60% |
小半損 | 30% |
一部損 | 5% |
地震保険の支払われる保険金額は、次のように覚えましょう!
自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)
自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)とは、すべての自動車の加入が義務付けられている保険(強制保険)のことです。
自賠責保険の補償内容は、自動車事故にあった他人(被害者)の人身損害に限られ、物に対する損害には保険金は支払われません。
自賠責保険では、運行供用者および運転者以外の人は他人とされるので、家族も自賠責保険の補償の対象となります。
また、被害者救済の目的から酒酔い運転や無免許運転等でも保険金は支払われます。
自賠責保険の保険金の支払限度額は、下表のとおりです。
損害の程度 |
損害の範囲 |
支払われる保険金の限度額 |
死亡による損害 | 葬儀費 逸失利益 慰謝料(本人および遺族) |
最高3,000万円 |
傷害による損害 | 治療関係費 文書料 休業損害 慰謝料 |
最高120万円 |
後遺障害による損害 | 逸失利益 慰謝料等 |
75〜4,000万円 (後遺障害の程度に応じた等級による) |
任意の自動車保険
所有・使用する車の台数が9台以下の保険契約者をノンフリート契約者、10台以上の契約者をフリート契約者といいます。
なお、契約している車の廃車、譲渡、リース業者への返還、車検切れ、留学や転勤等で海外に長期で出国する等の理由で、契約の解約をしたり更新をしない場合、保険会社に中断証明書を発行してもらうことにより、その時点でのノンフリート等級を10年間保持することができます。
再び車を所有することになったときに、中断時点の等級から再開することができるので、中断証明書がない場合と比べて安い保険料で加入することができます。
任意の自動車保険は、次の7種類の保険の組み合わせにより構成されています。
対人賠償保険
自動車事故により、他人(配偶者、親、子が被害者の場合は対象外)を死傷させ、法律上の損害賠償責任を負った場合に自賠責保険の補償額を超える部分に対して保険金が支払われます。
なお、被害者救済の目的から酒酔い運転や無免許運転等でも保険金は支払われます。
対物賠償保険
自動車事故により、他人(配偶者、親、子が被害者の場合は対象外)の自動車や建物等の財物に損害を与え、法律上の損害賠償責任を負った場合に保険金が支払われます。
なお、被害者救済の目的から酒酔い運転や無免許運転等でも保険金は支払われます。
人身傷害補償保険
契約の車の搭乗者が死傷した場合や、被保険者やその家族が他の車に乗車中または歩行者として歩行中に自動車事故により死傷した場合に、示談を待たずに、自己の過失部分を含めて損害額全額の保険金が支払われます。
搭乗者傷害保険
契約の車に乗車中の人(契約者やその家族に限らず搭乗者)が死傷した場合に、保険金が支払われます。
自損事故保険
契約の車の運転者自身や同乗者が、契約の車の運行に起因する事故等により死傷した場合で、自賠責保険や政府の保障事業では補償されない場合に、保険金が支払われます。
無保険車傷害保険
契約の車に乗車中の人が他の車との事故で死傷した場合等で、加害者が対人賠償保険を契約していないなどの理由で十分な賠償が受けられない場合に、保険金な支払われます。
車両保険
偶然の事故(衝突、盗難、接触等)や災害による契約の車の損害に対して保険金が支払われます。
ただし、被保険者の法令違反等による事故の場合には、保険金は支払われません。
また、災害については、台風や火災等による損害は補償されますが、地震、噴火、津波による損害は、特約がない場合は補償されません。
傷害保険
傷害保険とは、急激かつ偶然な外来の事故に起因するケガを補償する保険のことです。
主な傷害保険は、次のとおりです。
普通傷害保険
普通傷害保険とは、国内外、業務中、業務外を問わず、日常生活における急激かつ偶然な外来の事故に起因するケガを補償する保険のことです。
病気、熱中症、日射病、ウイルス性食中毒、細菌性食中毒、自殺、喧嘩、地震、噴火、津波等に起因するケガは、補償の対象外です。
保険料は職業(家族型の場合には本人)によって決まり、年齢や性別による差はありません。
家族傷害保険
家族傷害保険とは、普通傷害保険の保険対象者を家族にまで広げた保険のことです。
家族の範囲は、本人、配偶者、生計を一にする同居親族、生計を一にする別居の未婚の子となります。
学生・こども総合保険
学生・こども総合保険とは、学校内、登下校中、スポーツ、レジャー等、日常生活における事故に起因するケガを補償する保険のことです。
交通事故傷害保険
交通事故傷害保険とは、国内外、業務中、業務外を問わず、交通事故や道路通行中の事故、建物や乗り物(エレベーターやエスカレーターも含む)の火災等に起因するケガを補償する保険のことです。
保険料は職業による差はなく一律です。
ファミリー交通傷害保険
ファミリー交通傷害保険とは、交通事故傷害保険の保険対象者を家族にまで広げた保険のことです。
家族の範囲は、本人、配偶者、生計を一にする同居親族、生計を一にする別居の未婚の子となります。
国内旅行傷害保険
国内旅行傷害保険とは、国内旅行中の事故によるケガを補償する保険のことです。
ウイルス性食中毒や細菌性食中毒は補償の対象ですが、地震、噴火、津波に起因するケガは補償の対象外です。
海外旅行傷害保険
海外旅行傷害保険とは、自宅を出てから帰宅するまでの海外旅行中の事故によるケガを補償する保険のことです。
病気、ウイルス性食中毒、細菌性食中毒、地震、噴火、津波等に起因するケガも補償の対象となります。
個人賠償責任保険
個人が国内における日常生活の中で発生する偶然の事故によって、他人や他人の財産に損害を与え、法律上の損害賠償責任を負ったときに保険金が支払われます。
家族全員(本人、配偶者、生計を一にする同居親族、生計を一にする別居の未婚の子)が被保険者となり、賠償金や裁判にかかる訴訟費用、弁護士費用等が保険金として支払われます。
自分が飼っている犬が他人に噛み付いた場合等も補償の対象となりますが、自分の家族に対する事故、他人からの借用物に対する事故、業務中の事故、自動車の使用を原因とする事故等への賠償は補償の対象外となります。
所得補償保険
所得補償保険とは、社会保険の休業補償制度を補完するもので、国内外を問わず、病気やケガで就業不能となった場合に、所得を得られないことに対する損失を補償する保険のことです。
入院中だけでなく、医師の診断に基づく自宅療養中も補償の対象となります。
ゴルファー保険
ゴルファー保険とは、ゴルフのプレー中や練習中に、他人にケガや損害を負わせた場合や、自分のケガ、用具の損害等を補償する保険のことです。
このほか、国内の規定のゴルフ場でホールインワンやアルバトロスを達成した際の費用(達成の記念品や祝賀会、同伴キャディへの祝儀といった慣習にかかる費用)等も補償される場合があります。
法人向けの主な損害保険
法人向けの主な損害保険には、次のようなものがあります。
生産物賠償責任保険(PL保険)
製造、販売、提供した商品やサービス等が他人に引き渡された後、それらの欠陥によって他人に損害を与え、法律上の損害賠償責任を負ったときに保険金が支払われます。
施設所有管理者賠償責任保険
ビルや商店等の施設の所有管理者が、その施設の構造上の欠陥や管理の不備による事故や、施設内外で業務遂行中に生じた事故により、法律上の損害賠償責任を負ったときに保険金が支払われます。
請負業者賠償責任保険
土木工事・清掃作業請負業務を遂行することによる損害賠償責任を負ったときに保険金が支払われます。
労働災害総合保険
労働災害について、損害賠償責任を負ったときに保険金が支払われます。
労災保険の上乗せ給付もあります。
機械保険
機械類が突発的な事故によって損害を被った保険金が支払われます。
火災による損害は補償の対象外です。
建設工事保険
不測、突発的な事故により建設中の建物が損害を被ったときに保険金が支払われます。
店舗休業保険
卸売業、小売業、サービス業等の休業により損失を被ったときに保険金が支払われます。
積立型損害保険
積立型損害保険とは、保険期間が3年から20年程度に設定され、満期時に満期返戻金のある損害保険のことです。
ただし、保険期間中に全損事故や全損に近い事故が発生し、保険金額の全額が支払われた場合は損害保険契約が終了し、満期返戻金は支払われません。
保険料は、満期返戻金のために積み立てられる積立保険料と、保険会社の費用部分である付加保険料、将来の保険金支払いに充てられる純保険料で構成されています。
契約者は、積立保険料の一定の範囲内で契約者貸付制度や振替貸付制度を利用することができます。