最終更新日: 2023-08-17

相続のきほん

 
相続手続きのイメージ
 

  相続とは

 
相続とは、死亡した人の財産(資産および負債)を、特定の人が引き継ぐことです。
相続は人の死亡によって開始し、死亡した人を被相続人、財産を引き継ぐ人を相続人といいます。


  失踪宣告

 
失踪とは、ある人の生死不明の状態が一定期間継続することです。
行方不明となり、何年も音沙汰がなく、生死不明の場合を普通失踪といい、自然災害や事故、戦地に臨んだことによって生死不明の場合を特別失踪といいます。
 
普通失踪の場合、不在者の生死が7年間明らかでないときは、利害関係人の請求により、家庭裁判所は失踪の宣告をすることができます。
失踪の宣告を受けた人は失踪から7年が経過がしたときに死亡したものとみなされ、相続が開始します。
 
特別失踪の場合、危難が去った後1年間生死が明らかでないときは、利害関係人の請求により、家庭裁判所は失踪の宣告をすることができます。
特別失踪の場合には、危難が去ったときに死亡したものとみなされ、相続が開始します。
 

 

期間要件

相続開始時

普通失踪

生死不明から7年

失踪から7年が経過したとき

特別失踪

危難が去ってから1年

危難が去ったとき


  相続人

 
相続により遺産をもらえる人は、法定相続人受遺者のいずれかになります。

法定相続人

 
法定相続人とは、民法で定められた相続人のことで、被相続人の配偶者と一定の血族に限られています。
被相続人の配偶者は必ず相続人となりますが、婚姻届を提出していない事実婚や内縁の場合は、相続人になれません
 
また、被相続人と一定の血族関係にある血族相続人には、次のとおり優先順位があります。
 

  • 配偶者 :必ず相続人となります
  • 第1順位:子(実子、養子)
  • 第2順位:直系尊属(実の父母や祖父母)
  • 第3順位:兄弟姉妹

 
同じ順位の人が複数いる場合には、全員が相続人となります。
また、血族相続人は、先順位の者が1人でもいる場合には、後順位の人は相続人になることはできません。
未成年者が相続人になる場合には、代理人を立てる必要があります。

養子

 
第1順位である子は、実子でも養子でも同じ扱いとなります。
なお、養子縁組には、普通養子縁組特別養子縁組があります。
 
普通養子縁組
普通養子縁組とは、養子が実親およびその血族との親族関係を存続したまま、養親との親子関係をつくるという養子縁組のことです。
当事者の届出によって手続きが完了します。
ただし、未成年者を養子とする場合は、原則として家庭裁判所の許可が必要となります。
戸籍上は、養子と記載されます。
普通養子縁組による養子は、実親と養親両方の相続人となることができます。
 
特別養子縁組
特別養子縁組とは、養子が実親およびその血族との親族関係を断ち切り、養親との親子関係をつくるという養子縁組のことです。
家庭裁判所の審判による手続きが必要で、養子となるのは原則として15歳未満であることが条件となります。
養子縁組の審判確定時に18歳に達している場合には、縁組はできません。
戸籍上は養子と記載されません。
特別養子縁組による養子は、養親のみの相続人となることができます。
 
普通養子と特別養子の違いは、下表のとおりです。
 

 

普通養子

特別養子

成立方法

市役所への届出のみ
未成年の養子の場合は、家庭裁判所の許可が必要

家庭裁判所の審判が必要

実父母の意思

15歳以上は本人の自由意志で縁組
15歳未満は法定代理人(親権者等)の承諾が必要

原則として実父母の同意が必要

養親

20歳以上
独身者も可

原則として25歳以上(夫婦の一方のみ25歳以上の場合、もう一方が20歳以上であれば可)の夫婦で養親となる

養子

養親より年長でないこと
養親の尊属でないこと

原則として15歳未満(請求時点)

実親との関係

継続する
ただし、親権は養親に移る

断絶する

戸籍上の記載

養子と明記

実施扱い(長男、長女等)

試験養育期間

なし

6か月以上

離縁

当事者の合意で離縁できる

子の利益のために必要な場合のみ、家庭裁判所の判断で認められる

受遺者

 
受遺者とは、遺産を譲り受ける人として、遺言書で指名された人のことです。

相続欠格 

 
次のいずれかに該当する相続人は、相続権を失うことになります。
 

  • 故意に被相続人、または相続について先順位もしくは同順位にある相続人を死亡に至らせ、または、至らせようとしたために、刑に処せられた人
  • 被相続人が殺害されたことを知っていながら、これを告訴または告発しなかった人
    ただし、その人に是非の弁別がないとき等は除く
  • 詐欺または強迫によって被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取消し、または、変更することを妨げた人
  • 詐欺または強迫によって被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取消させ、または、変更させた人
  • 被相続人の遺言を偽造、変造、破棄、隠蔽した人

 
相続の欠格事由によって相続権を失った人の直系卑属(子や孫)は、代襲相続人となります。

推定相続人の廃除

 
推定相続人の廃除とは、被相続人の意思によって相続人の相続権を奪う制度のことです。
推定相続人が被相続人に虐待をし、もしくは重大な侮辱を加えたとき、その他著しい非行があったときに、家庭裁判所に申し立て、調停または審判により審理されます。
廃除の調停が成立または審判が確定すると、廃除された相続人は直ちに相続権を失い、戸籍の身分事項に廃除の記載がなされます。
なお、廃除の申し立ては、遺言で被相続人が廃除の意思表示をし、遺言執行者が家庭裁判所に申し立てることもできます。
廃除の対象となるのは、遺留分を有する推定相続人に限られます。
そのため、遺留分の放棄をした人は廃除の対象となりません。
廃除された人の直系卑属(子や孫)は、代襲相続人となります。

代襲相続

 
代襲相続とは、相続の開始時に本来相続人となるべき人の相続権がなくなっている場合に、その相続人のが相続人となることです。
 

  • 直系卑属)は、再代襲再々代襲が認めれれます
  • 兄弟姉妹は、兄弟姉妹の子(被相続人の甥または姪)までしか代襲相続は認められません
  • 直系尊属(実の父母や祖父母)は、代襲相続が認められません
  • 相続人が相続を放棄した場合には、代襲相続は認められません

 
なお、相続分は、本来相続人となるべき人が受けるはずだった相続分と同じであり、代襲相続人が複数いる場合は、その相続分が人数に応じて按分されます。


  相続分

 
相続分とは、複数の相続人がいる場合の、各相続人が遺産を相続する割合のことです。
遺言書がある場合には、遺言書に従って相続分を決めることとなり、これを指定相続分といいます。
遺言書がない場合には、相続人全員での話し合いによって相続分を決めることとなりますが、相続人全員が納得するのは難しい場合もあります。
そこで、民法で定められた目安に従って相続分を決める法定相続分というものがあります。
ただし、法定相続分はあくまでも目安なので、必ずしも法定相続分に従う必要はありません。

法定相続分

 
法定相続人の相続分は、下表のとおりです。
 

相続人

法定相続分

配偶者のみ

すべて相続

配偶者と子

配偶者:1/2
子:1/2
子が複数いる場合には、法定相続分である1/2を子の数で割ります

配偶者と直系尊属

配偶者:2/3
直系尊属:1/3
直系尊属が複数いる場合には、法定相続分である1/3を直系尊属の数で割ります

配偶者と兄弟姉妹

配偶者:3/4
兄弟姉妹:1/4
兄弟姉妹が複数いる場合には、法定相続分である1/4を兄弟姉妹の数で割ります

 
なお、胎児は相続開始のときにすでに生まれていたものとみなされます。
また、嫡出子(法律上の婚姻関係にある夫婦間に生まれた子)と非嫡出子(婚姻していない男女間に生まれた子)の相続分は同等です。
養子についても、養子と実子の相続分は同等です。
ただし、兄弟姉妹が相続人となる場合、父母が同じ兄弟姉妹(全血兄弟姉妹)と父母の片方のみ同じ兄弟姉妹(半血兄弟姉妹)では、法定相続分が異なります。
半血兄弟姉妹の法定相続分は、全血兄弟姉妹の1/2となります。

特別受益者の相続分

 
特別受益者とは、
 

  • 被相続人から遺贈を受けた人
  • 被相続人の生前、被相続人から結婚や養子縁組のために贈与を受けた人
  • 被相続人の生前、被相続人からその他生計の資本として贈与を受けた人

 
のことです。
 
共同相続人の中に特別受益者がいる場合は、その特別受益額を被相続人の遺産に加算した額を相続財産とみなして各法定相続人の相続分を計算します。
特別受益者の相続分は、算出額から特別受益額を減算した金額となります。
なお、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用建物またはその土地を遺贈または贈与した場合には、その遺贈または贈与を特別受益の対象外とする旨の意思を示したと推定されます。

寄与者の相続分

 
被相続人に対して療養看護等の貢献をした場合に、その貢献に配慮した遺産分割を可能とする寄与分制度があります。
相続人全員が参加する遺産分割協議において寄与者が主張し、他の相続人の合意を得て寄与分を考慮した遺産分けをします。
寄与者の具体的相続分は、被相続人の相続開始時の財産から寄与分を減算した額を相続財産とみなして、法定相続分や指定相続分により相続分を算定し、その算定額に寄与分を加算した額となります。
なお、分割協議において合意が得られない場合には、寄与者が申し出ることにより家庭裁判所が調停・審判により寄与分を定めます。

特別寄与者と特別寄与料

 
特別寄与者とは、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした相続人以外の親族(6親等内の血族、3親等内の姻族)のことです。
特別寄与者は、相続の開始後、相続人に対しその寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払いを請求することができます。
なお、相続権を取得するものではないため、特別の寄与をした人が遺産分割協議に参加することはできません。
また、相続人、親族以外の人、相続の放棄をした人、欠格者、廃除者および被相続人から対価を得ての労務の提供、被相続人に対する財産上の給付等の行為は対象となりません。
特別寄与料は特別寄与者と相続人で協議して決定しますが、調わないときは家庭裁判所に対し処分を請求す協議に代わるることができます。
ただし、特別寄与者が相続開始および相続人を知った時から6か月を経過したときか、相続開始時から1年を経過したときは、家庭裁判所に対し処分を請求することはできません。
特別寄与料は、相続開始時の財産の価額から遺贈の価額を控除した残額が限度となります。
そのため、被相続人が遺言ですべての相続財産について受遺者を指定している場合は、遺贈をした被相続人の意思が尊重され、特別寄与料を請求することはできません。
特別寄与者は、特別寄与料を被相続人から遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象となります。
なお、特別寄与料を取得した特別寄与者は、相続税の2割加算の対象となります。
特別寄与料を取得したことにより新たに相続税の納税義務が生じた特別寄与者の申告期限は、特別寄与料の支払額が確定したことを知った日の翌日から10か月以内となります。
特別寄与料を支払った相続人は、その金額を債務控除の対象として相続財産から控除します。
相続税の申告後に特別寄与料の支払額が確定した場合は、その確定したことを知った日の翌日から4か月以内に更正の請求をすることができます。
 


  遺産分割

 
相続人が複数いる場合、すべての相続人を共同相続人といい、被相続人の財産は共同相続人の共有となります。
この共有の相続財産を共同相続人で分けることを遺産分割といいます。
なお、被相続人は、遺言により、相続開始の時から5年以内の期間を定めて、遺産の分割を禁止することができます。

遺産分割の種類

 
遺産分割の種類には、指定分割協議分割調停分割審判分割があります。
 
指定分割
指定分割とは、遺言によって相続分や分割方法を指定する方法のことです。
遺産の一部についてだけ指定し、残りの部分は共同相続人が協議をして分割方法を決定することもできます。
 
協議分割
協議分割とは、共同相続人全員で協議をし、全員の同意により分割する方法のことです。
遺言と異なる内容の合意であっても、協議分割が優先されます。
協議成立後、全員の署名・捺印をした遺産分割協議書を作成します。
協議分割による相続分は必ずしも法定相続分とする必要はなく、特定の相続人の取得分をなしとすることもできます。
 
調停分割
調停分割とは、協議分割により協議が成立しない場合に、共同相続人の申立てに基づき、家庭裁判所の調停により分割する方法のことです。
裁判官と調停委員が分割案を提案し、当事者の合意によって成立します。
 
審判分割
審判分割とは、調停分割により協議が成立しない場合に、裁判官が職権で事実の調査および証拠調べを行い、当事者の希望等も考慮した上で、審判により分割する方法のことです。
なお、審判に対し、不服のある当事者は、即時抗告をすることができます。

遺産分割の方法

 
相続財産を実際に分割する方法には、現物分割換価分割代償分割があります。
 
現物分割
現物分割とは、個別の財産とその相続人を定め、現物のまま分割する方法のことです。
 
換価分割
換価分割とは、財産の全部または一部を金銭に換えて、その代金を共同相続人で分割する方法のことです。
 
代償分割
代償分割とは、物理的に分割が困難である等、現物分割が困難である場合に、特定の相続人が当該財産を取得し、その代償として自己の固有財産を他の相続人に与える方法のことです。
代償分割によって取得した代償財産は、被相続人から相続した財産ではありませんが、遺産分割協議により発生した債権に基づいて取得するため、実質的に相続により取得した財産と同じ扱いとなります。
したがって、代償財産は、贈与税ではなく、相続税の課税対象となります。
また、代償財産が金銭ではない株式や不動産の場合は、代償財産を交付した人に対しては譲渡所得が発生します。
 
なお、代償分割が行われた場合の相続税の課税価格は、次の式で計算します。
 

代償財産を交付した人の課税価格 = 相続または遺贈により取得した現物の財産の価額 − 交付した代償財産の価額

 

代償財産の交付を受けた人の課税価額 = 相続または遺贈により取得した現物の財産の価額 + 交付を受けた代償財産の価額

遺産分割前の相続預貯金の払戻し制度

 
口座名義人が死亡し、口座名義人の預貯金が遺産分割の対象となる場合には、遺産分割が終了するまでの間、相続人単独では相続預貯金の払戻しを受けられないことがあります。
このため、遺産分割が終了する前であっても、各相続人が当面の生活費や葬儀費用の支払い等のためにお金が必要になった場合に、相続預金の払戻しが受けられるよう、2018(平成30)年7月の民法等の改正により、相続預貯金の払戻し制度が設けられ、2019(令和元)年7月1日に施行されました。
 
相続預貯金の払戻し制度には、次のとおり2つの払戻し制度があります。
 
家庭裁判所の判断により払戻しができる制度
家庭裁判所に遺産の分割の審判や調停が申し立てられている場合に、各相続人は、家庭裁判所へ申し立ててその審判を得ることにより、相続預貯金の全部または一部を仮に取得し、金融機関から単独で払戻しを受けることができます。
ただし、生活費の支払い等の事情により相続預貯金の仮払いの必要性が認められ、かつ、他の共同相続人の利益を害さない場合に限られます。
 

単独で払戻しができる額 = 家庭裁判所が仮取得を認めた金額

 
制度利用の際に必要な主な書類は、次のとおりです。
 

  • 家庭裁判所の審判書謄本(審判書上確定表示がない場合は、さらに審判確定証明書も必要)
  • 預貯金の払戻しを希望する人の印鑑証明書

 
家庭裁判所の判断を経ずに払戻しができる制度
各相続人は、相続預貯金のうち、口座ごと(定期預貯金の場合は明細ごと)に、次の式で計算した額については、家庭裁判所の判断を経ずに、金融機関から単独で払戻しを受けることができます。
 

単独で払戻しができる額 = 相続開始時の預貯金額 × 法定相続分 × 1/3

※ただし、同一の金融機関(同一の金融機関の複数の支店に相続預貯金がある場合はその全支店)からの払戻しは、150万円が上限となります。

 
制度利用の際に必要な主な書類は、次のとおりです。
 

  • 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)
  • 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
  • 預貯金の払戻しを希望する人の印鑑証明書

 
遺産分割前の相続預貯金の払戻し制度は、次のように覚えましょう!
 

FP検定語呂合わせ暗記_遺産分割前の相続預貯金の払戻し制度

遺産分割協議書

 
遺産分割協議が成立し、各相続人の相続財産が確定したら、一般的には遺産分割協議書を作成し、証拠資料として残しておきます。
遺産分割協議書の形式に決まりはありませんが、相続人全員が署名捺印し、相続人全員の印鑑証明書を添付する必要があります。

  配偶者居住権

 
配偶者居住権とは、相続開始時に被相続人所有の建物に配偶者(被相続人の法律上の配偶者)が居住していた場合、終身または一定の期間、その建物を無償で使用・収益することができる権利のことです。
この権利は、遺産分割、遺贈、死因贈与、家庭裁判所の審判のいずれかによって取得することができます。
被相続人が居住建物を配偶者以外の人と共有していた場合には、配偶者居住権を設定することができません。
配偶者居住権は、建物に対して登記することにより、第三者に対抗することができます。
 
配偶者居住権は、居住建物の所有者以外の第三者に譲渡することはできません。
ただし、配偶者居住権を放棄したり、合意解除することができます。
配偶者が配偶者居住権を放棄すると、居住建物の所有者の「配偶者居住権付き居住建物の所有権」が「完全所有権」となります。
その結果、配偶者居住権が設定されていたときより居住建物の価値が増加し、売却も容易になります。
したがって、無償で放棄した場合には、放棄時の配偶者居住権の価額に相当する利益を、居住建物の所有者が贈与により受けたものとみなされ、贈与税の課税対象となります。
また、合意解除によりその時点の配偶者居住権の価額に相当する対価を、居住建物の所有者から配偶者が受けた場合には、配偶者の譲渡所得(総合課税)となり、所得税と住民税の課税対象となります。
 
配偶者は、居住建物の使用・収益に必要な修繕をすることができ、居住建物の所有者の承諾を得れることによって、居住建物の増築・改築も可能です。
しかし、災害等の理由により居住建物の全部が滅失してしまった場合には、配偶者居住権は消滅します。
 
居住建物の所有者が配偶者よりも先になくなった場合には、居住建物の所有者の相続人が配偶者居住権の目的とされた居住建物等を相続することになります。
相続により居住建物の所有者が変わっても配偶者居住権はそのまま存続します。

配偶者短期居住権

 
配偶者短期居住権とは、配偶者以外の人が、遺言または死因贈与により遺産に属する建物の所有権を取得した場合、配偶者は相続開始のときから遺産分割終了時までの一定期間(最短6か月)に限り、その建物を無償で使用することができる権利のことです。


  相続の承認

 
相続には様々な状況があります。
土地や預貯金等の資産ばかりでなく、負債を残したまま死亡する場合もあります。
相続の承認には、単純承認限定承認があります。
 
単純承認
単純承認とは、被相続人の財産(資産および負債)をすべて相続することです。
負債があった場合には、相続人が支払わなければなりません。
相続の承認手続きとしては、相続の開始を知った日から3か月以内に単純承認をする旨の意思表示(家庭裁判所に申述する必要はありません)をするか、限定承認や相続放棄の手続きを行わなければ、単純承認となります。
 
限定承認
限定承認とは、相続人が受け継いだ資産の範囲内で負債を支払い、資産を超える負債については責任を負わない相続方法のことです。
限定承認をするためには、相続の開始を知った日から3か月以内に、共同相続人全員(相続放棄者を除く)で家庭裁判所に申述する必要があります。


  相続の放棄

 
相続の放棄とは、被相続人の財産(資産および負債)を一切相続しないことです。
相続の放棄をするためには、相続の開始を知った日から3か月以内に、放棄をする相続人が単独家庭裁判所に相続放棄申述書を提出する必要があります。
相続の放棄の撤回は、熟慮期間である3か月以内であっても認められません。
 
なお、次のような取消事由に該当する場合には、相続の放棄の取消しをすることができます。
 

  • 未成年者が法定代理人の同意を得ないでしたもの
  • 成年被後見人がしたもの
  • 詐欺あるいは強迫によってさせられたもの
  • 後見人が後見監督人の同意を得ないでしたもの

 
また、相続の放棄をした場合には、放棄した相続人の子の代襲相続は認められません。


  遺言

 
遺言とは、遺言者(被相続人)が生前に自分の意思表示を一方的、単独的に行うことです。
15歳以上で、意思能力があれば誰でも作成することができます。
なお、遺言によって定めることのできる事項は、相続および財産処分に関する事項と身分上の事項に限られます。
作成した遺言の内容については、全部または一部を撤回することも可能です。
また、複数の遺言が存在する場合には、作成日の新しい遺言が有効となります。
なお、遺言者(被相続人)は、遺言により、相続開始の時から5年以内の期間を定めて、遺産の分割を禁止することができます。
 
遺言により法的効力が生ずる主な事項は、次のとおりです。
 

  • 非嫡出子(婚外子)を認知すること
  • 未成年者の後見人等を指定すること
  • 相続分の指定をすること
  • 遺産分割の方法を指定すること
  • 遺産の分割を一定期間禁止すること(最長5年)
  • 相続人相互の担保責任の変更をすること
  • 特別受益持戻しの免除をすること
  • 相続人の廃除およびその取消しをすること
  • 祭祀等の承継者を指定すること
  • 遺言執行者を指定すること
  • 遺贈すること
  • 寄附行為をすること
  • 信託の設定をすること
  • 遺留分侵害額請求の順序を指定すること

遺言の種類

 
遺言には、普通方式と特別方式があり、普通方式を採用することが一般的です。
普通方式と特別方式の遺言の種類は、下表のとおりです。
 

遺言の種類 内容

普通方式

自筆証書遺言

本人が遺言の全文、日付(年月日)、氏名を自署し、押印する
財産目録は、ページ毎に署名押印をすれば、パソコンでの作成や代筆、通帳のコピー等が認められる
氏名は、姓だけ、通称でも本人確認ができればよい
家庭裁判所の検認が必要であるが、自筆証書遺言保管制度を利用する場合は、検認が不要です

公正証書遺言

原則として本人が遺言内容等を口述し、公証人が筆記する
遺言者および証人に読み聞かせ確認をとる
公証人が方式に従った旨を付記し、本人、公証人、証人が署名押印する
2人以上の証人が必要である
原本の作成、保管は、公証役場となる
家庭裁判所の検認は不要です

秘密証書遺言

本人が遺言書に署名押印の後、遺言書を封じ同じ印で封印する
公証人の前で自己の遺言書の旨と住所氏名を申述する
公証人が日付と本人が述べた内容を筆記する
本人、公証人、証人が署名押印する
2人以上の証人が必要である
原本の作成は、公証役場となる
家庭裁判所の検認が必要です
遺言の存在を明確にし、その内容の秘密を保つことができる
パソコンでの作成や代筆も可能である

特別方式

隔絶地遺言

遺言者が一般社会との交通が断たれた場所におり、普通方式による遺言ができない場合に認められる遺言 

臨終遺言

疾病その他の事由によって死期が差し迫った人がする遺言 

※印鑑は、公正証書遺言については実印でなければなりませんが、自筆証書遺言と秘密証書遺言については実印のほか認印でもかまいません。
※遺言者の推定相続人および受遺者ならびにこれらの配偶者および直系血族のほか、未成年者、公証人の配偶者、4親等内の親族、書記および使用人は、いずれも証人になることができません。
※検認とは、家庭裁判所が相続人に対し遺言の存在とその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名等の遺言の状態を調査して内容を明確にし、遺言書の変造、偽造を防止するための手続きのことです。遺言の有効、無効を判断しているわけではありません。


  遺贈

 
遺贈とは、遺言によって他人に財産の全部または一部を無償で与えることです。
遺言によって財産を与える人を遺贈者といい、その財産を受け取る人を受遺者といいます。 
 
遺贈には、包括遺贈特定遺贈があります。
 
包括遺贈
包括遺贈とは、遺言者の遺産の全部または一部を割合で示して受遺者に遺贈することです。 
 
特定遺贈
特定遺贈とは、遺言者の遺産に属する特定の財産を受遺者に遺贈することです。

包括遺贈と特定遺贈の違いは、下表のとおりです。
 

 

包括遺贈

特定遺贈

遺贈形態

遺産の全部または一定割合を指定して遺産を遺贈する

特定の財産を遺贈する

放棄

相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述する
承認放棄がない場合は、承認したものとみなす

いつでも放棄できる。ただし、遺贈義務者、利害関係者等から催告を受けた場合は、その期間内に決定する
回答がない場合は、承認したものとみなす

地位

相続人と同じ権利義務を有する

受遺者

分割協議

遺産分割協議に参加する義務がある

相続人でない場合は、参加できない

債務の負担

包括割合で負担、債務控除可

なし

受遺者が以前死亡したとき

受遺者の相続人には遺贈は引き継がれない(遺贈は消滅し、受遺者の相続人に代襲はない)

遺留分

なし


  遺留分

 
遺留分とは、一定範囲の相続人が相続財産の一定割合を相続することができる権利のことです。
例えば、遺言書に「私の遺産はすべてAさん(愛人)に残します」と書かれていた場合、その遺言自体は有効ですが、残された家族の生活は困ってしまいます。
そのような場合に、遺留分の権利を行使することができます。

遺留分権利者

 
遺留分権利者とは、遺留分の権利を行使することができる相続人のことです。
遺留分権利者となることができるのは、被相続人の配偶者、血族相続人の第1順位である(代襲相続人を含む)、第2順位である直系尊属のみで、血族相続人の第3順位である兄弟姉妹は、遺留分権利者となることはできません。

遺留分の割合

 
遺留分の割合は、法定相続人が直系尊属のみの場合は法定相続分の1/3、それ以外の場合は法定相続分の1/2となります。
なお、遺留分の放棄は、相続開始の前後を問わずに行うことができます。
相続開始前の場合は家庭裁判所の許可が必要ですが、相続開始後の場合は家庭裁判所の許可は不要です。
 
法定相続人の違いによる遺留分は、下表のとおりです。
 

 法定相続人

法定相続分

遺留分の割合

遺留分

配偶者のみ

すべて

1/2

1/2

 配偶者と子2人

配偶者

1/2

1/2

1/4

1/4

1/8
1/4 1/8

子2人

1/2

1/2

1/4

1/2

1/4

配偶者と父母 配偶者

2/3

1/2

1/3

1/6 1/12
1/6 1/12
配偶者と兄弟2人 配偶者 3/4 1/2 1/2
1/8 0 0
1/8 0
父母 1/2 1/3 1/6
1/2 1/6
兄弟2人 1/2 0 0
1/2 0

遺留分侵害額請求権

 
遺留分侵害額請求権とは、遺言によって遺留分を侵害された遺留分権利者が、贈与または遺贈を受けた人に対して、その遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができる権利のことです。
遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の際に有した財産の価額に、被相続人が贈与した財産の価額を加算した額から債務の額を減算した額となります。
 
遺留分の対象となる被相続人の生前贈与については、
 

  • 相続人以外の人に対する贈与の場合は、原則として相続開始前1年以内に贈与したもの
  • 相続人に対する贈与の場合は、相続開始前10年間に贈与(婚姻もしくは養子縁組のため、または、生計の資本としての贈与)したもの

 
となります。
 
遺留分侵害請求権は、相続開始および遺留分の侵害する贈与または遺贈があったことを知った日から1年以内、または、相続開始を知らなかった場合には、相続開始から10年以内に行使しなければ、権利は消滅します。


  成年後見制度

 
成年後見制度とは、知的障害、精神障害、認知症等により、物事の判断能力が不十分であり、契約締結等の法律行為を行うことが困難な人に対して、家庭裁判所に申立てをして、本人の権利を守る援護者を選ぶことで、本人を法律的に支援する制度のことです。
 
成年後見制度には、法定後見制度任意後見制度があります。

法定後見制度

 
法定後見制度には、後見保佐補助の3種類があり、与えられる権限や職務の範囲が異なります。
 

 

後見

保佐

補助

対象者

判断能力が欠ける人

判断能力が著しく不十分な人

判断能力が不十分な人

申立者

本人、配偶者、4親等内の親族、検察官、市町村長等

権限

必ず与えれる権限

財産管理についての全般的な代理権、取消権(日常生活に関する行為を除く)

借金、訴訟行為、相続の承認や放棄、家の新築や増改築等、特定の事項についての同意権、取消権(日常生活に関する行為を除く)

申立てにより与えられる権限

上記の特定の事項以外の事項についての同意見、取消権(日常生活に関する行為を除く)
特定の法律行為についての代理権

借金、訴訟行為、相続の承認や放棄、家の新築や増改築等、特定の事項の一部についての同意見、取消権(日常生活に関する行為を除く)
特定の法律行為についての代理権

※「日用品の購入その他日常生活に関する行為」とは、次のようなことが該当します。
①食料品、日用品の購入 ②水道光熱費の支払い ③家賃・地代の支払い ④介護サービス利用料金の支払い ⑤医療費の支払い ⑥電車・バスの乗車 ⑦嗜好品の購入 ⑧書籍・趣味への支払い ⑨家族(孫等)への小遣い ⑩年金の管理・処分 ⑪前記①〜⑨のための預貯金の払出し
※上記については、成年被後見人になる前の生活習慣や生活水準、資産状況を配慮して、日常生活に関することかどうかを判断します。

 
法定後見は、本人の住民票上の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行うことで開始します。
申立てができる人は、本人、配偶者、4親等内の親族等のほか、身寄りのない人や親族の協力が得られない人等の福祉の観点から検察官や市町村長も行うことができます。
申立ての際は、成年後見人の候補者の希望を裁判所に伝えることができます。
ただし、本人に法律上または生活面での課題や、本人の財産管理が複雑困難といった事情が判明している場合には、弁護士や司法書士等の専門職が成年後見人に選任されることがあります。
また、希望どおりに親族後見となった場合でも、家庭裁判所の裁量で後見監督人を専任することがあります。
 
法定成年後見制度において、本人の同意が必要かどうかについては、下表のとおりです。
 

 

後見

保佐

補助

開始手続き

不要

不要

必要

同意権・取消権

不要

不要

必要

代理権

不要

必要

必要

※代理権とは、本人の財産を管理し、その財産に係る法律行為について本人を代理する権利のことです。

任意後見制度

 
任意後見制度とは、将来、判断能力が不十分となったときに備えて、本人が判断能力があるうちに、任意後見人を選任し、後見事務処理を委託する制度のことです。
任意後見人には同意見や取消権はなく、契約時に当事者間で合意した特定の法律行為の代理権によって被後見人を支援することができます。
 
任意後見制度の流れは、次のとおりです。
 

  1. 任意後見受任者と委任内容の検討
    将来、判断能力が不十分になったときにどのような生活を送りたいか、誰にどのような支援を受けたいかを検討し、本人と任意後見受任者との話し合いにより、委任する内容を決める。

  2. 任意後見契約
    本人と任意後見受任者が一緒に公証役場で、公正証書による任意後見契約を結びます。
    公証人の職権で法務局に登記されます。

  3. 任意後見監督人の申立て
    その後、本人の判断能力が低下し、任意後見制度を利用する必要が生じた場合、本人の住所地の家庭裁判所任意後見監督人の選任を申し立てます。
    申立権者は、本人、配偶者、4親等内の親族、任意後見受任者となります。

  4. 任意後見開始
    家庭裁判所による調査や審問等の手続きが行われ、任意後見監督人が選任されます。
    任意後見監督人が選任され、任意後見受任者が任意後見人となり、任意後見が開始されます。
    登記事項には、任意後見監督人の住所・氏名等が追記されます。

 
任意後見監督人とは、任意後見人が委任された内容の事務を行っているかどうかを監督する人のことです。
任意後見監督人には、弁護士、司法書士、社会福祉士、税理士等の専門職や法律、福祉に関わる法人等、第三者が選ばれるのが一般的です。
任意後見受任者本人、配偶者、直系血族、兄弟姉妹は、任意後見監督人になることはできません。
また、未成年者、本人に対して訴訟をし、または、訴訟をした人、破産者で復権していない人等も任意後見監督人になることはできません。
 
なお、任意後見契約は、次の理由によって終了します。
 
任意後見契約の解除
任意後見監督人が選任される前は、公証人の認証を受けた書面によっていつでも契約を解除することができます。
合意解除の場合には、合意解除書に認証を受ければすぐに解除の効力が発生します。
当事者の一方からの解除の場合は、解除の意思表示のなされた書面に認証を受け、これを相手方に送付してその旨を通告します。
任意後見監督人が選任された後は、正当な理由があるときに限り、かつ、家庭裁判所の許可を受けて、契約を解除することができます。
 
任意後見人の解任
任意後見人に財産の使い込み等の不正行為があって、任務に適しない事由が認められるときは、家庭裁判所は、本人、親族、任意後見監督人の請求により、任意後見人を解任することができます。
 
法定後見(後見、補佐、補助)の開始
任意後見監督人が選任され、任意後見が開始した後に、法定後見開始の審判がされた場合は、任意後見が終了します。
任意後見契約が登記されている場合には、任意後見契約を選択した本人の自己決定権を尊重することとなっていますが、本人の利益のために特に必要があると認められる場合には、家庭裁判所は法定後見開始の審判がすることができます。
 
本人や任意後見人の死亡、破産
本人が死亡したときは、任意後見契約は終了します。
また、任意後見人が死亡したとき、破産手続き開始の決定を受けたときも任意後見契約は終了します。
 
任意後見契約が終了すると、後見終了の登記をする必要があります。
また、任意後見人の解任の場合は、裁判所が登記を嘱託するため手続きは必要ありません。

成年後見登記制度

 
成年後見登記制度とは、成年後見人等の権限や任意後見契約の内容等を登記官がコンピュータ・システムを用いて登記し、登記官が登記事項を証明した登記事項証明書を交付することによって登記情報を開示する制度のことです。
登記事項証明書の交付請求できる人は、成年被後見人・成年後見人・成年後見監督人等の当事者・本人(成年被後見人等)の4親等内の親族・委任を受けた代理人等、一定の人に限定されています。