相続とは
相続とは、死亡した者の財産(資産および負債)を、特定の者が引き継ぐことです。
相続は人の死亡によって開始し、死亡した者を被相続人、財産を引き継ぐ者を相続人といいます。
失踪宣告
失踪とは、ある者の生死不明の状態が一定期間継続することです。
行方不明となり、何年も音沙汰がなく、生死不明の場合を普通失踪といい、自然災害や事故、戦地に臨んだことによって生死不明の場合を特別失踪といいます。
普通失踪の場合、不在者の生死が7年間明らかでないときは、利害関係人の請求により、家庭裁判所は失踪の宣告をすることができます。
失踪の宣告を受けた者は、失踪から7年が経過したときに死亡したものとみなされ、相続が開始します。
特別失踪の場合、危難が去った後1年間生死が明らかでないときは、利害関係人の請求により、家庭裁判所は失踪の宣告をすることができます。
特別失踪の場合には、危難が去ったときに死亡したものとみなされ、相続が開始します。
期間要件 |
相続開始時 |
|
普通失踪 |
生死不明から7年 |
失踪から7年が経過したとき |
特別失踪 |
危難が去ってから1年 |
危難が去ったとき |
相続人
相続により遺産をもらえる者は、法定相続人か受遺者のいずれかになります。
法定相続人
法定相続人とは、民法で定められた相続人のことで、被相続人の配偶者と一定の血族に限られています。
被相続人の配偶者は必ず相続人となりますが、婚姻届を提出していない事実婚や内縁の場合は、相続人になれません。
また、被相続人と一定の血族関係にある血族相続人には、次のとおり優先順位があります。
- 配偶者 :必ず相続人となります
- 第1順位:子(実子、養子)
- 第2順位:直系尊属(実父母、祖父母)
- 第3順位:兄弟姉妹
同じ順位の者が複数いる場合には、全員が相続人となります。
血族相続人は、先順位の者が1人でもいる場合には、後順位の者は相続人になることはできません。
未成年者が相続人になる場合には、代理人を立てる必要があります。
受遺者
受遺者とは、遺産を譲り受ける者として、遺言書で指名された者のことです。
代襲相続
代襲相続とは、相続開始以前に相続人となるべき者が死亡その他の事由で相続権を失った場合において、その者の直系卑属(子)が、その者に代わって同一順位で相続することです。
- 直系卑属(子、孫)は、再代襲、再々代襲が認めれれます
- 兄弟姉妹については、兄弟姉妹の子(被相続人の甥、姪)までは、代襲相続が認められます
- 直系尊属(実父母、祖父母)については、代襲相続は認められません
- 相続を放棄した者については、代襲相続は認められません
相続欠格
相続欠格とは、相続人の不正行為に対する制裁として、相続権を当然に喪失させる制度のことです。
相続人の欠格事由は、次のとおりです。
- 故意に被相続人または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために、刑に処せられた者
- 被相続人が殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者
ただし、その者に是非の弁別がないとき、または殺害者が自己の配偶者もしくは直系血族であったときは除く - 詐欺または強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた者
- 詐欺または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた者
- 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者
相続人の欠格事由によって相続権を失った者の直系卑属(子、孫)は、代襲相続することができます。
推定相続人の廃除
推定相続人の廃除とは、被相続人の意思によって、遺留分を有する推定相続人の相続権を喪失させる制度のことです。
推定相続人の廃除の要件は、次のとおりです。
- 廃除される者が、遺留分を有する推定相続人であること
遺留分を放棄した者は、廃除の対象外です。 - 遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、もしくはこれに重大な侮辱を加えたとき、または推定相続人にその他著しい非行があったとき
- 被相続人が家庭裁判所に廃除の請求をすること
- 廃除の審判または調停があること
廃除の審判が確定、または調停が成立すると、廃除された推定相続人は直ちに相続権を失い、戸籍の身分事項に廃除の記載がなされます。
また、被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければなりません。
推定相続人の廃除は、被相続人の意思に基づく制度であるため、被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができます。
被廃除者の直系卑属(子、孫)は、代襲相続することができます。
特別寄与者と特別寄与料
特別寄与者とは、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした相続人以外の親族(6親等内の血族、3親等内の姻族)のことです。
特別寄与者は、相続の開始後、相続人に対しその寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払いを請求することができます。
なお、相続権を取得するものではないため、特別の寄与をした者が遺産分割協議に参加することはできません。
また、相続人、親族以外の者、相続の放棄をした者、欠格者、廃除者および被相続人から対価を得ての労務の提供、被相続人に対する財産上の給付等の行為は対象となりません。
特別寄与料は特別寄与者と相続人で協議の上決定しますが、調わないときは家庭裁判所に対し処分を請求することができます。
ただし、特別寄与者が相続開始および相続人を知った時から6か月を経過したときか、相続開始時から1年を経過したときは、家庭裁判所に対し処分を請求することはできません。
特別寄与料は、相続開始時の財産の価額から遺贈の価額を控除した残額が限度となります。
そのため、被相続人が遺言ですべての相続財産について受遺者を指定している場合は、遺贈をした被相続人の意思が尊重され、特別寄与料を請求することはできません。
特別寄与者は、特別寄与料を被相続人から遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象となります。
なお、特別寄与料を取得した特別寄与者は、相続税の2割加算の対象となります。
特別寄与料を取得したことにより新たに相続税の納税義務が生じた特別寄与者の申告期限は、特別寄与料の支払額が確定したことを知った日の翌日から10か月以内となります。
特別寄与料を支払った相続人は、その金額を債務控除の対象として相続財産から控除します。
相続税の申告後に特別寄与料の支払額が確定した場合は、その確定したことを知った日の翌日から4か月以内に更正の請求をすることができます。
遺産分割
相続人が複数いる場合、すべての相続人を共同相続人といい、被相続人の財産は共同相続人の共有となります。
この共有の相続財産を共同相続人で分けることを遺産分割といいます。
なお、被相続人は、遺言により、相続開始の時から5年以内の期間を定めて、遺産の分割を禁止することができます。
遺産分割の種類
遺産分割の種類には、指定分割、協議分割、調停分割、審判分割があります。
指定分割
指定分割とは、遺言によって相続分や分割方法を指定する方法のことです。
遺産の一部についてだけ指定し、残りの部分は共同相続人が協議をして分割方法を決定することもできます。
協議分割
協議分割とは、共同相続人全員で協議をし、全員の同意により分割する方法のことです。
遺言と異なる内容の合意であっても、協議分割が優先されます。
協議成立後、全員の署名・捺印をした遺産分割協議書を作成します。
協議分割による相続分は必ずしも法定相続分とする必要はなく、特定の相続人の取得分をなしとすることもできます。
調停分割
調停分割とは、協議分割により協議が成立しない場合に、共同相続人の申立てに基づき、家庭裁判所の調停により分割する方法のことです。
裁判官と調停委員が分割案を提案し、当事者の合意によって成立します。
審判分割
審判分割とは、調停分割により協議が成立しない場合に、裁判官が職権で事実の調査および証拠調べを行い、当事者の希望等も考慮した上で、審判により分割する方法のことです。
なお、審判に対し、不服のある当事者は、即時抗告をすることができます。
遺産分割の方法
相続財産を実際に分割する方法には、現物分割、換価分割、代償分割があります。
現物分割
現物分割とは、個別の財産とその相続人を定め、現物のまま分割する方法のことです。
換価分割
換価分割とは、財産の全部または一部を金銭に換えて、その代金を共同相続人で分割する方法のことです。
代償分割
代償分割とは、物理的に分割が困難である等、現物分割が困難である場合に、特定の相続人が当該財産を取得し、その代償として自己の固有財産を他の相続人に与える方法のことです。
代償分割によって取得した代償財産は、被相続人から相続した財産ではありませんが、遺産分割協議により発生した債権に基づいて取得するため、実質的に相続により取得した財産と同じ扱いとなります。
したがって、代償財産は、贈与税ではなく、相続税の課税対象となります。
また、代償財産が金銭ではない株式や不動産の場合は、代償財産を交付した人に対しては譲渡所得が発生します。
なお、代償分割が行われた場合の相続税の課税価格は、次の式で計算します。
代償財産を交付した人の課税価格 = 相続または遺贈により取得した現物の財産の価額 − 交付した代償財産の価額
代償財産の交付を受けた人の課税価額 = 相続または遺贈により取得した現物の財産の価額 + 交付を受けた代償財産の価額
遺産分割前の相続預貯金の払戻し制度
口座名義人が死亡し、口座名義人の預貯金が遺産分割の対象となる場合には、遺産分割が終了するまでの間、相続人単独では相続預貯金の払戻しを受けられないことがあります。
このため、遺産分割が終了する前であっても、各相続人が当面の生活費や葬儀費用の支払い等のためにお金が必要になった場合に、相続預金の払戻しが受けられるよう、2018(平成30)年7月の民法等の改正により、相続預貯金の払戻し制度が設けられ、2019(令和元)年7月1日に施行されました。
相続預貯金の払戻し制度には、次のとおり2つの払戻し制度があります。
家庭裁判所の判断により払戻しができる制度
家庭裁判所に遺産の分割の審判や調停が申し立てられている場合に、各相続人は、家庭裁判所へ申し立ててその審判を得ることにより、相続預貯金の全部または一部を仮に取得し、金融機関から単独で払戻しを受けることができます。
ただし、生活費の支払い等の事情により相続預貯金の仮払いの必要性が認められ、かつ、他の共同相続人の利益を害さない場合に限られます。
単独で払戻しができる額 = 家庭裁判所が仮取得を認めた金額
制度利用の際に必要な主な書類は、次のとおりです。
- 家庭裁判所の審判書謄本(審判書上確定表示がない場合は、さらに審判確定証明書も必要)
- 預貯金の払戻しを希望する人の印鑑登録証明書
家庭裁判所の判断を経ずに払戻しができる制度
各相続人は、相続預貯金のうち、口座ごと(定期預貯金の場合は明細ごと)に、次の式で計算した額については、家庭裁判所の判断を経ずに、金融機関から単独で払戻しを受けることができます。
単独で払戻しができる額 = 相続開始時の預貯金額 × 法定相続分 × 1/3
※ただし、同一の金融機関(同一の金融機関の複数の支店に相続預貯金がある場合はその全支店)からの払戻しは、150万円が上限となります。
制度利用の際に必要な主な書類は、次のとおりです。
- 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)
- 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
- 預貯金の払戻しを希望する人の印鑑登録証明書
ただし、必要な書類については、法律上規定が設けられていないので、払戻しを受ける金融機関に事前に確認する必要があります。
遺産分割前の相続預貯金の払戻し制度は、次のように覚えましょう!
遺産分割協議書
遺産分割協議が成立し、各相続人の相続財産が確定したら、一般的には遺産分割協議書を作成し、証拠資料として残しておきます。
遺産分割協議書の形式に決まりはありませんが、相続人全員が署名・捺印し、相続人全員の印鑑登録証明書を添付する必要があります。
相続の承認
相続には様々な状況があります。
土地や預貯金等の資産ばかりでなく、負債を残したまま死亡する場合もあります。
相続の承認には、単純承認と限定承認があります。
単純承認
単純承認とは、被相続人の財産(資産および負債)をすべて相続することです。
負債があった場合には、相続人が支払わなければなりません。
相続の承認手続きとしては、相続の開始を知った日から3か月以内に単純承認をする旨の意思表示(家庭裁判所に申述する必要はありません)をするか、限定承認や相続放棄の手続きを行わなければ、単純承認となります。
限定承認
限定承認とは、相続人が受け継いだ資産の範囲内で負債を支払い、資産を超える負債については責任を負わない相続方法のことです。
限定承認をするためには、相続の開始を知った日から3か月以内に、共同相続人全員(相続放棄者を除く)で家庭裁判所に申述する必要があります。
相続の放棄
相続の放棄とは、被相続人の財産(資産および負債)を一切相続しないことです。
相続の放棄をするためには、相続の開始を知った日から3か月以内に、放棄をする相続人が単独で家庭裁判所に相続放棄申述書を提出する必要があります。
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます。
相続の放棄の撤回は、熟慮期間である3か月以内であっても認められません。
なお、次のような取消事由に該当する場合には、相続の放棄の取消しをすることができます。
- 未成年者が法定代理人の同意を得ないでした場合
- 成年被後見人がした場合
- 詐欺あるいは強迫によってさせられた場合
- 後見人が後見監督人の同意を得ないでした場合
また、相続の放棄をした場合には、放棄した相続人の子の代襲相続は認められません。
遺留分
遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に保障されている資産承継の権利のことです。
例えば、遺言書に「私の遺産はすべてAさん(愛人)に残します」と書かれていた場合、その遺言自体は有効ですが、残された家族の生活は困ってしまいます。
そのような場合に、遺留分の権利を行使することができます。
遺留分権利者
遺留分権利者とは、遺留分の権利を行使することができる相続人のことです。
遺留分権利者となることができるのは、被相続人の配偶者、血族相続人の第1順位である子(代襲相続人を含む)、第2順位である直系尊属のみで、血族相続人の第3順位である兄弟姉妹は、遺留分権利者となることはできません。
遺留分の割合
遺留分の割合は、法定相続人が直系尊属のみの場合は法定相続分の1/3、それ以外の場合は法定相続分の1/2となります。
なお、遺留分の放棄は、相続開始の前後を問わずに行うことができます。
相続開始前の場合は家庭裁判所の許可が必要ですが、相続開始後の場合は家庭裁判所の許可は不要です。
法定相続人の違いによる遺留分は、下表のとおりです。
法定相続人 |
法定相続分 |
遺留分の割合 |
遺留分 |
|
配偶者のみ |
すべて |
1/2 |
1/2 | |
配偶者と子2人 |
配偶者 |
1/2 |
1/2 |
1/4 |
子 | 1/4 |
1/8 | ||
子 | 1/4 | 1/8 | ||
子2人 |
子 |
1/2 |
1/2 |
1/4 |
子 | 1/2 |
1/4 |
||
配偶者と父母 | 配偶者 | 2/3 |
1/2 |
1/3 |
父 | 1/6 | 1/12 | ||
母 | 1/6 | 1/12 | ||
配偶者と兄弟2人 | 配偶者 | 3/4 | 1/2 | 1/2 |
兄 | 1/8 | 0 | 0 | |
弟 | 1/8 | 0 | ||
父母 | 父 | 1/2 | 1/3 | 1/6 |
母 | 1/2 | 1/6 | ||
兄弟2人 | 兄 | 1/2 | 0 | 0 |
弟 | 1/2 | 0 |
遺留分侵害額請求権
遺留分侵害額請求権とは、被相続人による生前贈与、遺贈、遺言等の財産処分によって遺留分を侵害された場合、金銭による価額弁償を受けることができる権利のことです。
遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の際に有した財産の価額に、被相続人が贈与した財産の価額を加算した額から債務の額を減算した額となります。
遺留分の対象となる被相続人の生前贈与については、
- 相続人以外の者に対する贈与の場合は、原則として相続開始前1年以内に贈与したもの
- 相続人に対する贈与の場合は、相続開始前10年間に贈与(婚姻もしくは養子縁組のため、又は生計の資本としての贈与)したもの
となります。
遺留分侵害請求権は、遺留分権利者が、相続開始及び遺留分の侵害する贈与又は遺贈があったことを知った日から1年以内、又は相続開始を知らなかった場合には、相続開始から10年以内に行使しなければ、時効によって消滅します。